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富田屋の珈琲新聞

奈良少年刑務所2

第248号
2022.12.01発刊
カテゴリー
学び

講演会に参加しての、その続き

10月に寮美千子さんの講演会に参加しての、その続きです。

前回、奈良少年刑務所で尞さんの詩の教室に集められた10人の子たちは教官の隣で小さくなって怯え切って震えている子、オレ様オーラ全開の子、薄ら笑いを浮かべている子、チック症状のひどい子、吃音のひどい子、下を向いて土のように固まっている子と書きました。そんな子たちがたった6ヶ月の詩の授業、絵の授業、コミュニケーションの授業を受けて、それぞれの状態、症状が嘘のように改善したと言います。

それはそれぞれの着ていた鎧を脱いだら巣の自分が出てきたからです。例えば小さく怯えているのは目立たなくて透明マントのように安全な鎧、オレ様オーラは威張って他を寄せ付けない鎧、薄ら笑いは他者に敵意のないことを示す鎧という具合。彼らの生い立ちや生活環境などでうまく生きていくために身に着けた鎧なのです。

でも、チョイスした鎧があまり役に立っていなかったのかも。詩の教室での何でも言える場(刑務官がいるのに麻薬は良い!と言える)、吃音でなかなか言葉が出なくても何分でも待ってくれる場、どんな詩でも感想を言ってくれる場。そんなこれまでに経験したことのない優しく安心できる場が心のかさぶたが剥がれるように鎧を脱ぎ捨て、元の優しい自分に戻れたんだと思います。

例えば、こんな詩があったそうです。
「ぼくのすきな色は青色です。
つぎにすきな色は赤色です。」
尞さんはこれが詩? 何とコメントしたらいいのかと逡巡していると子どもの手が挙がり、「ぼくはB君の好きな色を、一つだけじやなくて二つ聞けてよかったです」、「ぼくも同じです。B君の好きな色を二つも教えてもらってうれしかったです」、「B君は、ほんま赤と青が好きなんやなあって、よく伝わってきました」と感想が。こんな感想をもらえたB君は土のように固まっている子でしたが、その瞬間から表情が出て人間に戻ったそうです。

尞さんは「人間はみんな植物と同じで良い方向に向かって伸びたい生き物なんだよ。そして、君たちは変わらなくてもいいんだよ、心の傷が癒せたらいいよ」、とも行っていました。

そして、なんと9年間の授業を受けた180人の子たちの中で1人も悪い方向へ行った子はいなかったそうです。1期目で奇跡のような変化を目にした尞さんは初回がビギナーズラックだったと思いつつも、2期目3期目を重ねていかれたそうですが、半年間の毎期毎期が奇跡の連続だったと言います。詩のパワー、表現のパワー、表現したものをしっかり受け止めてもらえるという安心感なのでしょうね。

そんな噂を聞き、次第に刑務官から「うちにも授業を受けてもらいたい子がいるんだけど」とお願いされるまでに評判が良くなったそうです。

1つ詩を紹介します。本のタイトルにもなった、雲というタイトルの
「空が青いから 白を選んだのです」
という詩。これは言葉をほとんど話せない子の詩。
この1行を読むのもなかなか大変だったそうです。が、読み終わった後、拍手が起き、その後、自分から言いたいことがあるんですと告白。僕のお母さんは今年で7回忌で父に虐待されていたと。そのお母さんが病院で「私が死んだら空で見守っているから辛いことがあったら空を見てね」と言ったそうです。雲になったお母さんが自分が探しやすいように白を選んだという詩だったのです。その後も感想の嵐が起き、彼は鎧を脱ぎ捨てました。そして、後にはみんなの相談役にまでなったそうです。

自己表現できないほどに優し過ぎる彼ら。なんなら僕ら夫婦も優しいです(笑)そう、結構みんな犯罪を犯してしまう可能性はあるんじゃないかと思っています。うちで働いてくれる子たちも本当に優しいです。うちで働くことで僕らもみんなも鎧を脱いでいけたらいいなと思った奈良公園の午後でした。

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