最高のコーヒーを届けたいから、
「作り置き」はしません
コーヒー作りに欠かせない過程である「焙煎(ロースト)」。富田屋ではこの焙煎を、必ず、お客様からコーヒーのご注文を受けた後に行っています。
焙煎した直後から、コーヒーの鮮度は落ちる
焙煎前のコーヒー生豆はとても固く、香りも味もほとんどありません。
焙煎してようやく、コーヒー独特の香りが表れ、粉に挽けるほど柔らかくなり、風味も出ます。
しかし焙煎後のコーヒーは、時間がたつと香りが抜け、他の香りを吸い、お湯をかけても膨らまなくなり、焙煎したてとは似て非なるものになります。
豆の状態ならば1ヶ月程度、美味しさは保たれますが、その間も徐々に香りは抜けてゆきます。粉の状態ではもっと早く、2週間ぐらいで劣化するでしょう。空気に触れる面積が、豆よりもはるかに大きい(20倍以上)からです。
また、古くなったコーヒーは酸化します。飲む人の体にも良いものではありません。
保存状態によってはある程度長持ちしますが、やはり少しでも焙煎直後に近い、新鮮な状態でコーヒーをお届けしたいと考えております。
富田屋が「作り置き」をせず、ご注文をお受けしてから焙煎しているのは、そのためです。
豆によって異なる「最適の焙煎度」
焙煎の度合いには、「浅煎り」「中浅煎り」「中煎り」「中深煎り」「深煎り」とあります。
浅煎りは生豆に火がそれほど通っていない状態、深煎りは火が十分通っている状態です。浅煎りは酸味を感じやすく、香りは華やか。そして深煎りになるほど苦味が感じられ、コーヒーらしい深い香りや、苦味と共存する甘さも楽しめます。
また、豆によって焙煎度の向き・不向きがあります。
例えば、マンデリンは浅煎りにすると酸味が前面に出てきますので、中深煎りや深煎りが合います。逆に酸味の少ないブルーマウンテンや、浅煎りで香りが非常に良いエチオピアのモカなどは浅煎りに向いています。最も幅広い層に楽しんでいただけるのは中煎りでしょう。
なおコーヒーの焙煎方法には「直火式」と「熱風式」がありますが、富田屋では、直火式を採用しています。
直火式は香りが良く、火が直接コーヒー豆に当たることで、味わいも複雑に感じます。一方で熱風式は、個人的には味の方向としてあっさり感じられ、酸味のインパクトは強く感じました。双方の特徴をよく吟味した結果、よりコーヒーの魅力を引き出せる直火式での焙煎を、私は選んでいます。
温度、時間、量…様々な要素が影響する繊細な作業
コーヒーの焙煎において、他ではあまり言われないのですが、私は生豆の「温度」が重要だと考えています。
当店では毎日、生豆の温度を見て、室温なども考慮して焙煎機への投入温度を変えています。ですから季節によっても焙煎の方法は変わります。
リピーターのお客様は、コーヒーに「いつも変わらない味」を望まれます。ですが焙煎する者としては、この「変わらない味」を出すのが、なかなかに難しいのです。
同じ日に、同じ豆を同じ量だけ焙煎しても、初回と2回目以降とでは出来が大きく違ってきます。それを同じに近づけるには、投入温度や煎り上げの温度の入念な調整が必要です。さらに焙煎の時間や、焙煎機の使い方によっても味や香りは微妙に変わってきます。焙煎とは繊細な作業です。
よく「焙煎って難しいですか?」と聞かれますが、「簡単と言えば簡単で、難しいと言えば難しい」というのが私の答えです。
豆を火にかけ、火加減を見て、火を止める。やっていることは非常にシンプルで、ただ焙煎するだけなら何も難しくありません。
しかし上述の通り、焙煎の出来具合は様々な要素に左右され、思い描く焙煎度にするのには苦心します。受注後に焙煎する富田屋では、毎回の焙煎量が違うから、なおのこと。それでも「より美味しく、いつも同じ味を」と、お客様にご満足いただけるコーヒーのために、富田屋は日々焙煎に取り組んでいます。